がん闘病記と日々雑感

がん闘病記と日々雑感

~右往左往の備忘録~

⑨<診察と中間効果測定>2017年1月~

診察は週に1回。血液検査の後に行われる。

主治医のY先生は40代、大柄で大声の、元気溢れる男性。対して、もう一人の主治医A先生(放射性肺炎の治験担当)は20代、小声で早口、そして天然成分溢れる女性。

Y先生は診察室のカーテンは閉めるがドアは閉めない。彼の大声は待合室に丸聞こえだ。A先生はちょこまかとした動きでなぜか待合室まで迎えに来る。カオルコさんここにいたんですね!どうぞどうぞ中へ中へ、といった具合。

私はY先生には大筋のことを、A先生には細かく気になるところを聞くことにしていた。

Y先生「(血液検査のコピーを渡しながら)白血球はまぁまぁですね。低め安定ってところかな。大きく落ちてはいないのでこのまま続けましょう!」(大声)

私「あ、良かったです」

Y先生「それ以外、何か気になることありますか??」(大声)

私「(ノートを見ながら)眩暈と便秘はだいぶ良くなりました。だけど倦怠感が尋常じゃないです。それと痛みはあいかわらずで」

Y先生「倦怠感はね、抗がん剤の影響もあるし、毎日被爆してるわけだから、もうしょうがない! 辛い時は寝てください! ねっ! 圧迫痛はそろそろ良くなるころだけど、、、鎮痛剤変えましょうか? 今、何飲んでましたっけ?(とモニターを見る)」

私「カロナールです。」

Y先生「じゃあロキソニンに変えましょう!」(大声)

私「あ、私、ロキソニン好きです」

Y先生「僕もです! いいですよねロキソニン! じゃまた来週!」(大声)

 

そしてA先生の部屋に移動。(A先生の診察は2週に1度)

A先生「どうですかぁ~(と血液検査を見ながら) 白血球大丈夫ですねぇ」

私「でも低いままですよね、それってどうにもならないんですかね? それと血小板の値も気になる。。。」

A先生「下げ止まってるから大丈夫ですよぉ。良くする方法ってないんですよね~ 散歩がいいって聞いたことありますけどやってみます?ふふ。 血小板、確かにちょっと低めかな。ぶつけたりとかすると内出血しちゃうんで気をつけてね。ほんとに怖いのは内臓の出血なんだけど、そこまでの値じゃないです」

私「じゃひどくなったら教えてくださいね。あと痛みが酷くって、さっきY先生にロキソニン処方してもらったんですけど、院外じゃなくて院内処方に変えてもらえますか? 高額医療費免除になるんで」

A先生「あ、そうですね。変えます。痛みって食べることにも影響するの?」

私「しますよ。それに詰まりがあいかわらずだし。」

A先生「じゃあ食前に飲む○○(薬名失念)やってみます? 緑のドロドロした液体です。喉の通りが良くなる薬なんですけど」

私「え! そんな素晴らしいものがあるんですか! ぜひ!」

A先生「まぁ皆さん、効かないって言うんですけどね。ふふ。」

私「え?」

A先生、天然成分炸裂である。ウソがつけない。プラセーボ効果は台無し。結局緑のドロドロは全く効かなかった。

 

抗がん剤を飲み放射線を照射されるという非日常的日々の中、病院ではある意味牧歌的な、病院内の日常が淡々と繰り返されていた。

 

<中間効果測定>2月15日

放射線照射が半分を過ぎた頃、単純CT検査が行われた。

所見は『原発巣はやや縮小したように見えます』

この持って回った言い方が私は苦手だ。

Y先生「順調ですね! 大体こんなもんですよ!」(大声)

私「そうなんですか。『やや』って、、、『見えます』って、、、嫌な感じですけど(不満)」

Y先生「不正確なこと書くと訴えられちゃうからね。しょうがないんですよ。でも大丈夫ですよ! ここでは2年、遺残(がん細胞が残ってしまうこと)は出てないからね! 皆さん、中間効果測定はこんなもんです」(大声)

 

100%の納得といかないまま、A先生の部屋に移動。

A先生「(モニター見ながら)いい感じですねぇ、ふふ」

私「あ、大丈夫なんですね。実際どのくらい縮小してるんですか?」

A先生「(モニターのCT画像上を手書きソフトのようなもので測りながら)治療前は大体50mm。今回が35mmです。(横幅)」

私「正常な食道って、どのくらいでしたっけ?」

A先生「20mm位ですねぇ」と言いながら、手書きソフトでたどたどしく食道の絵を書く。

私はすっきりしないまま、診察室を後にした。

 

帰宅。夫に相談すると、F君に聞いてみようよ!と言う。F君というのは20年前に知り合った二人の共通の友人で、当時外科医を目指していた。私達はF君に「手先不器用なのに外科医なんて大丈夫なの~?」「大丈夫ですよ! お二人に何かあったら診てあげますよ!」「いや、いいわ。。。。」などと軽口を叩いていた。彼はその後、米国の研究所などに勤め、現在はがん専門病院の腫瘍内科医である。私達は放射線治療が始まって2週間後位に彼の存在を思い出した。お互い、Facebookで繋がっている。DMで今までの経緯などを説明し、都度相談にのってもらっていた。

F君にCT画像を送ると「いい感じだと思いますよ! この調子で頑張ってください」という返信がきた。F君は上司の食道に詳しい先生にも聞いてくれたようだ。大感謝。

そんな後押しがありながらも、やっぱり不安は募る。

夫が「念のため免疫細胞治療、聞きに行ってみる?」と言った。

免疫細胞治療とは、自分の血液を抜き出し、免疫力を人工的に強めて体に戻し、がん細胞を攻撃するという代替療法だ。保険が効かないためとても高い。(1クールでJ医院の差額ベッド代2ヶ月分位)

乳がんを再発した友人が受けていた。私達は話だけでも聞きに行ってみようかと、免疫細胞療法 Sクリニックの案内状を取り寄せていた。効果についてF君に聞くのは躊躇われた。彼の勤務地は標準治療のメッカだ。聞かれても困るだけだろう。主治医も当然賛成しないだろう。だが、Sクリニックの初診相談には主治医からの紹介状が必要である。

さあどうする?? 命は自分のものだ。やりたいことをやらずに後悔するなんてまっぴらごめんだと夫と話し、次の診察で主治医に談判することにした。

私「免疫細胞療法ってどう思います?」

Y先生「お勧めしませんが、行きたいなら止めもしませんよ」

私「Sクリニックって知ってます?」

Y先生「あー、僕の友達がバイトで勤めてるとこだ。紹介状が欲しいんですか?」

私「はい。で、パンフを読むと治療中にやると より効果があるらしいんですが」

Y先生「(こちらに向き直って)え! それは困ります。治療に影響があるようなことはやめてください」

私「え、でもでも、、、」

Y先生「あのね、免疫細胞療法はね、僕の家族がやるって言ったら僕は止めますよ。」

私「なぜですか?」

Y先生「まずお金が莫大にかかる。そして効果はないと思うから」

私「お金はJ医院に入院したと思えばいいから。生命保険の一時金も出ましたし。効果あるかどうかは分からないですよね?」

Y先生「確率低いんですよ、はっきり言って。免疫はね、かなり前からやってるんですよ。それなのに未だに保険適用にならない。もうその時点で期待できないってことですよ。ワクチンとか近赤外線とか新しい方法の方がまだ可能性あると思いますよ。まだ出来てないけどね。一体、免疫細胞療法のどこが良いと思っているんですか?」

私「どこが良いって、、、先生と医療についてディベートする気はありません。私も何も確信しているわけじゃないです。だからまずは話を聞きに行きたいんです。あとは自分で判断しますので紹介状出してください。治療中はしない方が良いという先生のご意見は伝えます。」

私は怒っていた。これには私の命がかかってるのだ。

 

勢いよく診察室を出た。今日はA先生の診察はない。受付で紹介状を待っていると、担当の看護師がきた。

看護師「大丈夫? ちょっと色々聞こえたから」

私「大丈夫じゃないですよ(怒) 治療はね、所詮治癒率100%じゃないですよね?当たり前だけど。だからね、私は出来ることは何でもしておきたいんですよ。私、死ぬかもしれないんですよ?!」

看護師「カオルコさん、不安なんだよね、分かるよ。そんな時はね、友達と買い物に行くとか、そういうことするといいよ」

私は余計に頭に来た。友達と買い物? そんな命がけの買い物、誰も付きあわせたくないよ!

 

紹介状を受け取ると、ズンズンと速足で出口に向かう。悔しかった。頭に来た。私はなんでガンになんてなっちゃったんだろう。なんでこんなところに毎日通わなくちゃならないんだろう。毎日毎日毎日毎日! 好き好んでここにいるわけじゃない! 『やや縮小したように見えます』?? そんな役所言葉、仕事なら叩き返してるよ!

 

歩いていると自然に涙が出た。すれ違う人が振り返る。私は構わずそのまま歩き続けた。